家に女と、その友達の男といると、
検診係のような風貌の男がインターホンをならし、伝票届いてませんか、と尋ねてくる。
答えあぐねていると、まあ仕方ないですね、と言い、
同じような風貌の人間約15人で庭を解体し始める。
ああ、これはやばいやつだ、
と、判断し、混乱しながら、
二階の電話から110を押し、警察に連絡するも、
担当部署が違う、
と、取り合ってもらえない。
下に降りると庭は木も草もすべて美しく刈りとられ、
家の中の一階も床が剥がされていて、
女の友達の男は死んでいた。
ああ、これは解体して金目のものを奪い、かつ後に法外請求をするという二重強奪で、
余計な目撃者は殺すやつだ、
余計な目撃者は殺すやつだ、
と判断し、血の気が引き、
女と逃げる。
カジノの10階から降りて行くためには、各階の規定メダル数を稼がなければならない。
幼児のプロポーカー(人魚の足の衣裳をはいている)が渋い顔をしてカードをさばいている。
ギャンブルをしたことはなく、メダルを稼ぐ自信はない、
追手はじりじりと近寄ってくる。
映画俳優と女優が腕を組んで登場し、
群衆が大きく動いている隙に、女と非常階段に忍び込む。
頭の中は真っ白のまま、
二人で全力で螺旋階段を駆け下りていくが、
追手は後ろから、また前からも待ち構えているので、
手すりに乗って、追手をすり抜けながら滑り降りる。
風圧を激しく浴びながら、
突き破る針のように落ちていく、
突き破る針のように落ちていく、
助かる見込みと女の手は、首の皮一枚繋がっている。
円柱状の空間の中心線を軸として、
外壁という外壁は次第に激しく巻き上がっていく。
女は傷を負っていて、手すりに上手く乗れず、手が離れる。
助かる見込みと女の手は、遙か後方でもう見えない。
(女はしかし生きている、理由はわからない。)
体は、遙か先のなにかから吸い寄せられるままに、
速度は増す一方、そのまま手すりを逆走し上方へ、
そして空へ投げ出され、
手すりも軸も外壁も追手もすでになく、
大きく緩やかな放物線となる。
大きく緩やかな放物線となる。
一面の空。速度は意志を既に超えている。
そのまま、熱狂につつまれたスタジアム、
サッカーが行われているそのときその頭上を、
サッカーが行われているそのときその頭上を、
鮮明な解像度で弧が描かれていく。
躍動感をもって駆け抜ける20数名の選手、歓声をあげる両国のサポーター、
色とりどりの旗と人と、
その、なにの視界にも入る前に、
その、なにの視界にも入る前に、
向こう側のゴールバー左上あたりをかすめ客席に突っ込む、
停止、視界が消える。
黒。
おそらく全て速度の前に置き去りにされたので、
もはや生死の基準もわからない。